旧小学校を活用したQ1に見る異例の公民連携の形。山形市

10月28日、29日の2日間、桐生市議会 公共施設のあり方等調査特別委員会の行政視察に参加。視察2日目は山形県山形市に寄らせていただきました。

山形市は前日の宇都宮市同様に県庁所在地であり、人口は約24万人の中核市となります。山形盆地の南部に位置する内陸の市で、城下町として発展してきました。

今回視察させていただいたのは旧第一小学校の校舎をリノベーションして開設された「やまがたクリエイティブセンターQ1」です。旧第一小学校の跡地なので「きゅういち」であり、クリエイティブは問い続けていくことから「Question.1」の意味も込めているとのことでした。

旧第一小学校の校舎は昭和2年に建設された山形県内初の鉄筋コンクリート造りの建物で、国の登録有形文化財にも登録されています。新校舎が隣接しており、解体の危機もあったとのことですが、歴史ある建物であることや、中心市街地の中央に位置するロケーションもあり、保存活用することが決定しました。2010年~2021年までは山形まなび館という名の観光交流拠点として1階と地下が活用されていたそうですが、2017年のユネスコ創造都市ネットワークへの加盟をきっかけに、クリエイティブな人材と地元産業を掛け合わせるための拠点として整備することが決定しました。

このQ1の整備にあたって大きな役割を果たしているのが東北芸術工科大学の存在です。かつて映画館が立ち並んでいたシネマ通りの学生によるアリアリノベーションなどで山形市の街中との連携が進んでいた経緯があり、大学と山形市が連携協定を結び、大学を主体に運営会社となる株式会社Q1を設立しています。

開設までの経過としては、いきなり整備に着手するのではなく、まずは2年間の社会実験を行うということを決めたそうです。そこでリノベーションスクールやクリエイティブ会議を開くなどして、開業前の仮出店など社会実験を繰り返しました。ここで施設全体や各フロアのコンセプトなどを決定し、明確なビジョンを共有する中でテナントの誘致がスタートしていきます。運営会社である株式会社Q1とはデザインとオペレーションを包括業務委託を行い、テナントも単純に募集するのではなく、入ってきてもらいたいテナント(プレーヤー)を口説いて引っ張ってくるということを基本に、妥協せずにほしいテナントに入居をお願いしたそうです。入居に当たっての条件は厳しく、家賃は相場かやや高い設定で、活動が見えるようにガラス張りにすることや、他のテナントと何らかの事業やプロジェクトに取り組むことなどが求められています。それでもオープン時点で80%以上の入居率で現在は入居待ちの引き合いが絶えないほどの人気の施設となりました。入居するテナントの種類はバラバラで、RICOHなどの大手オフィスから作家さんの工房、小売り店、飲食店、古着屋など様々な業種が一つの校舎の中に共存しています。「多様性ではなく異質性」「寛容性ではなく創造性」というコンセプトにこの施設の状況がよく表れています。       

さて、このQ1ですが運営会社である株式会社Q1が管理・運営を担っている訳ですが、そのスキームはかなり特殊です。まず、公募ではなく山形市との随意契約となっているのですが、その契約内容は行政サービス部分の業務委託料と、テナント部分を入居者に貸し出す行政財産の賃貸契約の2本に別れます。行政サービス部分は委託費を受取り、テナント部分ではそこでの収益の一部を山形市にお支払いするという仕組みです。行政サービスと収益部分を分離することにより、床面積で経費を分担することができ、収益事業にも積極的に取り組みやすくなります。指定管理では賃料の決定や営業日や時間の設定が自由にできませんが、床面積を賃貸と業務委託に別けて管理することにより自由に設定ができ収益を上げやすく、各年度の収益を踏まえて毎年生産をおこなうという方式を取っているとのことでした。このような随意契約は非常に複雑であり、契約に当たっては山形市と運営会社との間で細部まで相談しながら決定したそうです。なお、床面積比で業務委託部分は69%、民間部分は31%になるとのことで、毎年売り上げの31%は民間部分からの収益ということで山形市にお支払いしているそうです。

さて、施設のコンセプトや整備についてですが、間もなく築100年を迎えようとしている旧第一小学校の歴史ある校舎について、できる限り建てられたままのデザインで整備することを心がけたそうです。登録有形文化財なので、外観については4割以内の改修が求められ、エレベーターの設置や窓の交換等の最小限の変更にとどめているとのことでした。内観については1階と地下は「山形まなび館」時代に改修した雰囲気のまま、手付かずだった2階、3階については内装を剥がし、躯体をそのまま見せるような形で、床を貼ったり空調を追加したりなどの最小限の改修に努めており、それがより一層クリエイティブな雰囲気を高めているような印象を受けました。

改修費は10億円弱で半分は国の交付金を活用しており、市の負担は5億円ほどのようです。ちなみに、桐生市で来年1月を目途に整備が進んでいる旧西中学校跡地を活用した(仮称)桐生市教育センターの整備費用は約16.4億円で起債と基金で対応するので国からの交付金はなく市単独の予算(起債への交付税措置を除く)であり、その比較からもQ1の整備がいかに低額かつクリエイティブな思想で実施されたかが伺えるところです。

桐生市においては既に使われていない既存の校舎が複数存在するほか、現在は市立小中学校の適正規模・適正配置の議論が行われており、今後更に空き校舎が増加することが見込まれます。小中学校の校舎は地域の拠点施設でもありますので、統廃合などによって空き校舎が生じてしまった際には、民間への売却による賑わいの確保や、公民連携による地域拠点の整備などを、スピード感を持って検討・実施していかなければなりません。Q1の事例は限られた財源の中で、地域人材を有効に活用して先進的かつ多機能な施設として整備し、稼働率が100%を超えるという、行政が関わった施設としては非常に希な成功事例とも言えます。Q1の整備の検討には2年という歳月をかけて丁寧に議論が行われました。桐生市もこれらの先進事例に学ぶ中で、目の前に迫った公共施設の総量縮減に向けて、より具体的なアクションをいち早く打ちしていくべきであると強く感じた次第です。

最後になりますが、今回ご対応をいただきました株式会社Q1の皆様に心より感謝申し上げます。シネマ通りのエリアリノベーションなどもぜひ勉強させていただきたいので、機会を見て改めて山形市を再訪できれば幸いです。貴重な機会をいただきありがとうございました。