若者の仕事がないのではなく、求めている仕事がない。ならば仕事をつくろう。IT企業の進出が相次ぐ油津商店街

桐生市議会経済建設委員会の視察2日目(10月4日)は、宮崎県日南市の油津商店街の取り組みについて、市役所担当者のお話をお伺いするとともに、現地視察もさせていただきました。

日南市は宮崎市の南部にある人口5万人弱の都市です。今回視察させていただいた油津地区はマグロ漁やカツオ漁で有名な油津漁港が有名で、商店街は油津漁港とJR油津駅を結ぶ導線上にあります。

油津商店街の再生の契機となったのは平成24年度からの4年間で取り組んだ中心市街地活計化計画に基づく活性化事業です。全国の多くの自治体で策定されている中心市街地活性化計画ですが、これに基づく事業は箱もの整備やコンサルタントへの業務委託などが多く、成功事例と呼べるものは決して多くありません。そんな中、日南市では油津商店街の再生のため「テナントミックスサポート マネージャー」という役職を作り、民間公募するという独自の手法を取り話題となりました。公募の内容は委託料90万円/月、採用後は日南市に居住すること、担保誘致は4年間で20店舗というものです。その結果、全国から333名の応募があり、市民を集めての公開プレゼンテーションなどの審査を経て木藤亮太氏に決定するに至りました。

その後の商店街への出店実績としては、1年目で0店舗、2年目で2店舗(うち1店舗はマネージャーが会社を作り運営)と厳しい状況が続きましたが、結果的に3年目で15店舗、4年目で29店舗と大きな成果をあげる結果となりました。その最初の店舗となったのがABURATU COFFEEです。木藤マネージャーらが自ら(株)油津応援団を起業して、市民ボランティアらと共に喫茶店をリノベーションし、オープンしています。このリノベーションが市民の共感を集め、その後の商店街再生のきっかけとなったそうです。

その後、(株)油津応援団では空き地にコンテナショップ6棟を整備(ABURATU GARDEN)したり、スーパーマーケット跡地を多世代交流施設や飲食店にリニューアルしたりと、自ら商店街に投資をしていくことで、その周辺にも新規出店が相次ぐなど連鎖反応が生まれました。木藤マネージャーが単なるコンサルタントではなく、自ら投資をしてまちづくりに参画していく姿勢が、周囲にも良い影響をもたらしたのではないかと感じたところです。

続いて、油津商店街の再生において注目すべき点はIT企業の積極的な誘致です。今回のご説明の中では、日南市の有効求人倍率が上昇し続けていること、その中でも事務職を希望する方が圧倒的に多いことなどの説明がありました。これれの傾向桐生市でも例外ではなく、ほぼ全ての地方自治体において同様の傾向が見られます。つまりは「仕事がないので若者が地方から流出する」のではなく「若者が求める仕事がないから流出している」ということに着目するとき、工場やお店を誘致するのではなく「若者が求める事務職をつくる」という発想に至り、油津商店街へのIT企業誘致の取り組みがスタートします。大型の空き店舗に東京のIT企業を誘致したことを皮切りに、IT企業の進出が相次ぎ、現在では油津商店街の中に14社の企業が進出し、約200名が働く場所として再生されました。

IT企業の誘致は空き店舗対策と若者の雇用創出の2つの課題が同時に解決するとともに、商店街を働く場とすることにより商店街で食事をするなど消費者人口も増加し、多くの波及効果を生んでいる状況が見て取れました。

今回ご説明意をいただいた日南市役所の担当者のお話しで印象的だったのは「商店街を今までと同じ機能として残していく考えはない」という言葉です。正に油津商店街では、商店街にIT企業という新たな機能を与えて再生を図っています。「肩と肩がぶつかり合うほどの賑わい」と言われた商店街のかつての姿の幻想を追うのではなく、今の時代に求められる商店街に転換していこうという日南市の姿勢は、全ての地方都市にとって、そして桐生市においてもたいへん参考になる事例だと感じました。1日目に視察した太田市の工場アパートの事例も含め、街中に就業人口を増やすことで賑わいをもたらそうという取り組みについて、桐生市でも具体的な施策に落とし込めるか検討を重ねていくべきと感じた次第です。

丁寧なご対応をいただきました日南市役所の皆様及び日南市議会の皆様に心より感謝申し上げます。