観光や商店街ではなく、“まちの空間”を再生する。鳥取県境港市 視察報告
10月27日から29日の3日間、桐生市議会 経済建設委員会の視察で鳥取県・島根県に行かせていただきました。
1日目の視察地は鳥取県境港市へ。境港市は長さ約20kmの弓浜半島の北端に位置しており、人口は約3万3千人(桐生市のおおよそ1/3)、面積約29㎢(桐生市のおおよそ1/10)と小さな都市です。三方が海に開けており、全国第3位の魚水揚げ量と水木しげる先生の出身地として知られています。境漁港と重要港湾である境港、そして米子鬼太郎空港という三つの港を有していることも大きな特徴で、海と空に開かれた交通結節点の街です。


今回の視察では「水木しげるロードによる中心市街地活性化」についてお伺いをさせていただきました。「水木しげるロード」におけるまちづくりは、一般的な観光振興や商店街イベント中心の取り組みとは大きく異なり、国土交通省所管の都市計画事業を基盤にした“空間再編型のまちづくり”である点に強い特徴があると感じます。通常、商店街振興に資するハード整備事業となると商業系の予算を引っ張ってくる必要があるのですが、境港市では都市基盤の再編を起点に整備をスタートしたとのことです。


平成2〜8年に実施された初期整備は、土地区画整理事業と都市計画道路事業という“まちの骨格をつくる”手法から始まり、歩道拡幅や駅前広場の整備、アーケードの更新・撤去、公共トイレや駐車場の整備、ポケットパークの配置など、中心市街地の空間構造そのものを再構築するアプローチが採られました。ここに、妖怪オブジェやレリーフといったコンテンツが重ねられたことで、結果的に「観光地」として認知が高まっていったとのことです。ちなみに、有名になったきっかけとしては、銅像が壊されたことが全国ニュースになり認知度が急激に高まったとのことでした。重要なことは、妖怪の銅像は一つのコンテンツであり、根底には人が歩きやすく滞留しやすい公共空間整備がメインに据えられていることです。観光振興ありきではなく、都市計画的な公共空間整備が先にあり、それがコンテンツ展開の土台になった点は注目すべき部分だと感じました。
続いて第二期リニューアルについてです。平成25年にリニューアルを宣言し、平成30年に完成した第二期事業は単なる更新ではなく、街路そのものを「体験の場」につくり変えることを狙った空間デザイン重視の事業が展開されました。一方通行化による大胆な歩道拡幅や道路線形の変更による回遊性と滞在性向上、地域素材(来待石)を用いたオリジナル舗装、妖怪的樹形の樹木(枝垂れエンジュ)配置、ブロンズ像の追加と再配置(全178体)、ナイトミュージアム(公共照明演出)など多様な事業が実施されています。これらは第一期と同様に、商店街活性化の一般的手法(補助金による店舗改修、イベント開催など)ではなく、街路空間そのものを“観光コンテンツ”として設計する都市計画的思考が貫かれています。
特に、照明を用いた夜間演出を公共空間として実施した点は、日本の地方都市では稀有であり、滞在型のインバウンド受入の要とも言われるナイトタイムエコノミーの充実の観点でも戦略的な演出を実現した好事例といえそうです。なお、境港市では宿泊者が少ないことが課題とされていたことから平成28年にホテルを駅前に誘致。現在では年間7~8万人の宿泊需要を生み出しているとのことでした。

第二期リニューアルを経た結果、水木しげるロードの来街者数はV字回復し、初年度の一次経済波及効果250億円超であったとのこと。また、空き店舗の解消などの商店街への効果も大きなものがあったそうです。このように水木しげるロードにおいてイベントやアーケード整備などの単純な商店街支援策だけでは成し得ない大きな成果が出た背景には、都市空間を大胆に更新し、人が歩きたくなる環境を創り、その上に水木しげるという強力なコンテンツを重ねたというプロセスがあります。まちの器をつくり直したからこそ、妖怪コンテンツが最大限に効果を発揮できたと言えるのかもしれません。
境港市の取り組みは、観光振興や商店街再生に成功したケースとして語られることが多いですが、実際には「都市計画事業による空間整備」と「地域資源を活かした唯一無二のコンテンツ」を掛け合わせた結果で成立したものであり、観光や商店街の施策に偏らずに「まちの空間」を基礎から整備したことが、持続的なにぎわいと広域観光の集客力につながっているという点は、多くの地方都市にとって参考になるものと感じました。
なお、境港市役所での説明及び質疑応答の後、現地の様子も視察させていただきました。月曜日の夕方というタイミングにも関わらず、インバウンドや若い女性のグループなど多くの方が街歩きを楽しんでいた様子を拝見し、日常の賑わいが生まれている様子を実際に感じ取ることができ、瞬間的なイベントではなく継続した取り組みの重要性を再認識した次第です。
最後になりますが、今回の視察を受け入れていただきました境港市産業経済部の皆様、並びに境港市議会の皆様に心より感謝申し上げます。ありがとうございました。


