手段を目的化しない。コストを抑えた議会IT化。三重県鳥羽市
桐生市議会 議会運営員会の行政視察2日目となった本日は、三重県鳥羽市議会を訪問をさせていただきました。濱口副議長様のほか、計6名の市議会議員の皆様と議会事務局職員2名による手厚い体制でのご説明をいただき、心より感謝申し上げます。鳥羽市は三重県中部に位置し、伊勢湾に面した環境から漁業が盛んで、海女漁は日本遺産や重要無形文化財にも指定されています。人口は約1万7千人と少ないですが、観光客数は年間300万人であり、言わずと知れた観光都市でもあります。また、有人離島が4つあり、約2割の住民が離党に住んでいるというのも一つの特徴です。
今回の鳥羽市議会での視察項目は「議会IT化の推進について」となりますが、鳥羽市は早くからIT化に取り組んできたことで知られます。議会中継のネット配信とX(旧Twitter)は平成22年から、YouTubeは平成24年から、Facebookは平成27年から、LINEは令和2年からと、ソーシャルメディアの活用を他議会に先駆けて取り組んできている印象です。また、YouTubeを用いた本会議や委員会のネット配信をテロップ挿入なども含めてリアルタイムで議会事務局職員自らが担い行っていることなども、できる限り経費をかけずに発信力を強化しようという姿勢が垣間見え、感心させられました。
続いて議会でのタブレットの利用についてですが、平成23年に議会費でノートパソコン3台とiPad2台を購入して議員共用で使用可能となり、iPadを使用して便利と感じた議員の中で(持ち出しができないことなどから)個人で所持したいとの要望が出てきたそうです。その当時は議会でのタブレット使用の先進事例が少なく、佐賀県議会における政務活動費を用いて全員がタブレットを所持するという事例を参考にしつつ、同法式を採用。契約する議員が順次増えていき平成24年には議員全員がタブレットを契約するに至ったそうです。議会でのタブレット活用の創成期であったこともありますが、このように強制せずに各自の判断で導入を促していくという手法は珍しく、ここまでの過程では個々の議員の意識を高めていくような努力があったものと想像するところです。現在ではそれぞれ議員が所持するiPadについて、政務活動費のなかで1/2按分という形で対応しています。
さて、全員がタブレットを持ったということで、鳥羽市議会でのIT化の推進は次の段階に入っていきます。グループウェアアプリとして、既存サービスを活用しながら順次導入が進展。はじめに、メールを導入して郵便やFAXが廃止されました。これだけでも大きな経費節減です。次にGoogleドライブを使用してファイル共有を行い、委員会資料などが予め確認でき、アーカイブとしても見られるようになりました。更にGoogleカレンダーの導入により議会全体のスケジュールの可視化(こちらは市議会HPを通じて市民にも共有されています)。更に連絡先をiPadに入れることで、お互いの連絡先を調べる手間を省きました。そして、令和5年に導入した最新のアプリがLINE WORKSです。こちらでは開催通知など議員と議会事務局間での連絡のほか、Googleカレンダーに公開できない内部のスケジュールやアンケート機能による出欠確認など、活用の幅が大きく広がったとのことです。
これらのグループウェアアプリを見て共通しているのが、基本的には費用が掛からない無料のアプリを使用しているということ。当然ながら、使い勝手だけ考えるとSide Booksなどオールインワンものが望ましいところではありますが、そのライセンス料において費用負担が一定必要となります。一方で鳥羽市議会では、無料のグループウェアアプリを段階的に導入していくことで、費用をかけずに機能をアップデートさせていくことに成功しました。タブレットの使用に抵抗のある議員に対しても、一つのアプリを導入して習熟したらまた新たなアプリを導入するといった段階を踏むことで、大きな抵抗なく導入が進んでいったものと想像します。桐生市議会では令和7年1月の新議場の利用開始というタイムリミットを持った上での検討を行っていることから、鳥羽市議会のような段階的な整備よりも、オールインワンのペーパーレス会議システムの導入の方が可能性は高いかも知れませんが、現状の検討段階においても先んじてできるものを試験的に導入していくといった取り組みは、鳥羽市議会を参考にしながらぜひとも行っていくべきだろうと感じた次第です。
座学での説明の後は、議場においてモニターパネルの使用についてご説明をいただきました。鳥羽市議会では平成24年にパネルの取扱い要領を策定しており、かなり早い段階からモニターパネルの活用を行っています。ここでも鳥羽市議会の創意工夫が感じられるのは、特別な会議システムを入れるのではなく、議場に46インチのモニターを2台設置して、質疑者が一般質問時などに演台にある変換ケーブルにタブレットを接続して表示するという、非常にシンプルかつ安価な方法によってこれらを実現していることです。なお、モニターパネルの入力切替えは議会事務局次長がリモコンでその都度行っているとのことでした。鳥羽市議会の徹底的なコスト削減の姿勢には本当に頭が下がります。
最後に、議会IT化の先駆者として走ってきた鳥羽市議会の皆様よりまとめとしてご教授いただいたポイントをご紹介いたします。「手段を目的化しない」「使わざるをえない仕掛けが必要」「出来ることから始める」です。桐生市議会でも、この3つのポイントを念頭に置きながら、タブレットや会議システムの導入について具体化を図っていきたいと思います。
これまで、議会運営員会や議会改革調査特別委員会も含めて、全国の多くの市議会の取り組みを調査・研究してきましたが、鳥羽市議会のやり方、考え方は正に目から鱗というべき本質を突いたものでした。「手段を目的かしない」この意識をしっかり持って、真に必要なものを検討していけるよう、今後の桐生市議会での検討に活かしていきたいと思います。
最後になりますが、多くの時間を割いて、また多くの人数で丁寧にご対応をいただきました鳥羽市議会の皆様に心から感謝申し上げます。ありがとうございました。