市民と繋がるICT技術 ―安城市議会視察―
議会運営委員会の行政視察2日目は、前日犬山市に続き同じ愛知県の県央にある安城市にお伺いをさせていただきました。市内には東海道新幹線の駅があり、三河安城駅の名前を聞いたことのある方は多いかと思います。安城市の人口は約18万9千人、日本一の工業都市である豊田市に隣接する自動車関連産業が盛んな都市です。視察では「議会ICT化の取り組みについて」学ばせていただきました。
前日に視察をさせていてだいた犬山市は「市民フリースピーチ制度」や「親子議場見学会」など、様々な市民参加の機会を提供することで市民に開かれた議会を具現化していましたが、豊田市ではICT技術を活用した「市民と繋がる議会」の取り組みを推進しています。愛知県の中でも先頭をきって会議におけるペーパーレス化を実現しました。
取り組みのスタートとしては、平成22年に市民アンケートを実施して「議会の見える化」の必要性を把握、平成27年に議会ICT推進プロジェクトチームを立ち上げるに至りました。平成28年にはタブレットを各議員に貸与しています。導入から初めての本会議までの期間が約1か月と短く、特に年配の議員を中心に操作性の習得のための講習会を毎日のように繰り返したそうです。タブレットの導入の一番の課題は、電子機器に馴染みのない世代の理解をどの様に得ていくかだと思います。そのためには、安城市のような繰り返し丁寧な説明を重ねていく必要があるのだろうと思います。
ペーパーレスの推進により期待される費用対効果の一例としてはは印刷製本費の縮減、及び議会事務局の事務量の軽減による人件費縮減の効果などです。ただし導入時点において、または改選時の新人議員への操作研修等にあたっては議会事務局の負担は一定程度必要になるのだろうと感じます。
また、ICTを活用した市民に開かれた議会という視点においては、議会のライブ中継、大型スクリーンの導入により議会の見える化・魅せる化、情報発信の迅速化などにより、議会運営の満足度・信頼度・議員活動のしやすさの向上、議会の見える化・活性化に繋がる施策に取り組んでいます。
タブレットの導入にあたっての費用面ですが、3年3ヵ月のレンタルプランで1台当たり月約4,500円となり、決して安い金額ではありません。負担割合は公費2500円、政務活動費 2000円となっています。また、導入費用の初期費用が約460万円、年間のランニングコストが約310万円となっており、費用対効果が年間のランニングコストを上回ることが導入への一つのハードルになってくるのだろうと思います。
タブレットは全額公費で賄うと庁舎外に持ち出すことが制限されることから活用の機会が限られてしまいます。安城市の場合は公費と政務活動費の折版となっていることから、議会・庁舎内だけでなく行政調査や普段の議員活動でも活用できる仕組みとなっています。例えば、タブレットで議会資料をいつでも参照できることで、出先でも市民からの問い合わせ等に活用できたり、現場で状況写真を撮影して議会で示したりと、活用方法が多様に広がっていくと思います。安城市では初めて使用した平成28年3月定例会後の議員アンケートの結果から、概ね活用されていることが確認できたそうです。
安城市でのタブレット導入における具体的な費用対効果についてですが、平成29年度実績では年間222万円の削減と算出されているそうです。内訳としては年間のランニングコスト313万円、削減効果金額は535万円で、コスト削減された内容は人件費、印刷製本費、FAX廃止などとなります。
愛知県内で最もICT活用が進んでいる安城市議会。タブレット導入の他にも、小中学生にも議会・政治に興味を持ってもらうための市議会HPへのキッズページの開設など、ICTを活用した「市民と繋がる議会」を目指した取り組みが着実に進んでいるという印象を受けました。
前日の犬山市の市民参加型の開かれた議会づくり、そして安城市のICTを活用した開かれた議会づくり、どちらもアプローチは違いますが、目指していく方向性は同じです。安城市における議会のICT化は費用対効果を含めてしっかり成果が出ており、桐生市においても参考になる取り組みだと思います。一方で、実際に導入するとなると多額の初期費用が掛かること、電子機器に不慣れな世代の議員の皆様にも賛同を得ていかなければならないと、そして一番の障壁は議事棟を含めた市庁舎の再整備が計画されていることから議場の整備には慎重にならざるを得ないことなどがあります。何れにしましても、ICT化の推進は避けては通れない道ですので、桐生市の望ましい最善の形を検討するうえで、先進自治体の事例をしっかり学んで行くことが必要だと再確認した行政視察となりました。
最後に、ご対応いただきました安城市議会の皆様、及び安城市議会事務局の皆様に心より感謝申し上げます。ありがとうございました。